【採卵8回目1】やれること

7回目の採卵でできた分裂がゆっくりの受精卵を破棄し、田熊は8回目の採卵周期に入りました。
会社でのゴタゴタにより業務量が一気に増え、不妊治療で仕事を休むことへの風当たりが若干強くなったなか、
「移植6回、もしくは採卵10回でダメだったら、もう不妊治療はおしまいかな」
という明確な数字が田熊の頭の片隅に浮かんでいました。
会社のこともありますが、田熊自身の身体やメンタルがそれくらいで限界かなと思ったのでした。
残り2回の保険移植を悔いなく終えるべく、今更ながら庶民なりにやれることはやろう、と思い立ちました。
まず、クリニックで保険採卵・移植にプラスできる自費の処置をやることにしました。
とは言っても田熊の通うクリニックでできる自費の処置はアシステッドハッチングとSEET法くらいでした。
SEET法となると新鮮胚ではなく凍結融解胚移植をする必要があるため、凍結融解に耐えられる良好胚盤胞を得るというのが条件となってきます。
(大多数の人には余裕かもしれませんが、胚盤胞がなかなかできない田熊にはハードル高い条件)
ということで、採卵を複数回繰り返してだんだんと疎かになっていっていた魚中心の食事と漢方とセルフお灸も再開させることにしました。
これらはもはや願掛けでしたがもうここまで来ると医学的根拠より気持ちの問題でした。
サプリメントも元々飲んでいた葉酸・鉄・ビタミンD・ラクトフェリンに加え、お高いし膣に自分で入れなきゃいけない気持ち的に難易度高めのラクトフローラの膣錠(子宮内フローラを整えるやつ)を追加。
あとおっくんはもちろん禁酒。
漢方とサプリをちゃんと飲む。
湯船には入らない。
初心(?)に帰ってこれらをちゃんと実行することを夫婦で約束しました。
【採卵7回目5】残り2回

7回目の採卵の受精確認日。
田熊に知らされた結果は
「卵子12個中、受精1個、5日目の時点で初期胚」
という何とも厳しい状況でした。
2つ前の採卵でも受精確認の日に同じような状況でした。
その時は採卵をしても移植にたどり着けないということ自体が辛く気持ちがもたなかったので、妊娠率が低くなることは承知の上で、できていた初期胚1つを継続して培養、7日目に低グレード胚盤胞3CCになった卵を子宮に戻したのでした。
着床結果はhCG2で陰性。
妊娠には至りませんでしたが、測定限界値ながらも初めて数値が出たことで、子宮内に着床できない要因がある可能性が低いということがわかったのでした。
ただし、その時の移植は保険適用の3回目。
その一回がダメでも保険内であと残り3回移植できるという心の余裕があったのでした。
今回、田熊の移植は5回目。
保険適用の移植は6回までなので、これがダメだった場合、移植のチャンスはあと1回のみということになります。
残り2回の移植は後悔のないように、自分なりに万全を期して良好胚盤胞を移植したいという思いがあったので、せっかく受精できた卵でしたが破棄してもらうことを選択しました。
【採卵7回目4】デジャヴ

会社で大変なことが起こった翌日、田熊は7回目の採卵後の受精確認のためクリニックへ向かいました。
従業員全員が精神大混乱の中がんばって働いているのに自分だけ休むのは少々気が引けましたが、自分の人生も大事だし、そもそも受精確認はずらせないし、と自分に言い聞かせて予定通り仕事は休みをとりました。
2周期のお休み期間で存分にストレス発散し、今回は卵胞の育ちも順調。
採れた卵子は12個。
保険適用の残り2回の移植分、2個でいい、胚盤胞できてくれ…
という田熊の願いも虚しく、採卵から5日目で胚盤胞は1つもできていませんでした。
採れた12個の卵子のうち成熟卵は1個だけで、その1個は受精はしましたが分裂が遅く、5日目の時点で初期胚。
ここまでの説明を聞き、田熊は「デジャヴだ...」と5回目の採卵の受精確認を思い出していました。
【採卵7回目3】フォロー

7回目の採卵から4日目。
田熊は受精確認を翌日に控え、まったく集中できないポンコツ状態で最低限の仕事をこなしていました。
その日、社長から従業員全員(と言っても10人程度)に話があると皆が集められ、総務を担当していた女性が事故で意識不明重体、職場復帰は絶望的、という知らせを受けました。
従業員全員ショック状態で驚嘆する人、泣き出す人、理解が追いつかず聞き直す人とその場でパニックが起こりました。
社長はみんなを落ち着けて、総務さんの容態の説明をしたあと、涙目になりながら田熊の方を向き、
「総務さんがやっていたこれとこれと、この仕事をやってもらえるかな?」
と言いました。
受精確認前ポンコツ頭に総務さん重体の衝撃、からの引き継ぎなしの未知の仕事を振られ頭の中が「え????????」という何も考えられない状態に陥りましたが、そのシチュエーションで断れるはずもなく言われるがままに総務さんがやっていた仕事をいくつか引き受けました。
会社で急遽欠員が出た際に周囲の人間がフォローしなければならないのは致し方ない状況であると思います。
ですが当時自分の抱える業務さえキチキチのスケジュールでこなしていた田熊は、総務さんの仕事を振られた瞬間、
「とうとうフルタイム正社員と不妊治療両立の限界がきた...!」
と悟りました。
【採卵7回目2】久々の麻酔

2023年9月、田熊は無事7回目の採卵を終えました。
卵子は12個採れて田熊にしてはまずまずの結果でした。
が、麻酔後の体調不良がすごい。
前日の絶飲食開始時間直前まで水分を十分摂り対策はバッチリしたはずだったのですが、久しぶりの麻酔だったからなのかなんなのか、家に帰って寝ても目眩と吐き気と胃痛がおさまらず、体調不良は翌朝を迎えても続いていました。
その日は会社に出勤する予定だったのですが起き上がって働ける気もせず、総務の方にLINEでお休みしたい旨を連絡してそのまま寝てしまいました。
【採卵7回目1】会社


2023年9月。
田熊は2周期のリフレッシュお休み期間を経て、7回目の採卵周期を開始しました。
薬なし通院なしの日常生活と旅行によって心身ともに健康を取り戻し、再開した毎日の自己注射を無の感情でこなし、ホルモンによる体調不良も穏やかにやり過ごしていました。
そんなある日、会社で仕事をしていると社長に声をかけられました。
「田熊さん、10月に3日間出張行ってもらいたいんだけど」
田熊は一瞬、フリーズしました。
10月の治療がどうなっているか9月時点で全く読めないし、採卵⑦がうまく行っても行かなくても、その3日間に通院日が当たってしまう可能性はあるのでした。
田熊が渋々
「治療の関係で、難しいです」
と答えると、社長は眉間に皺を寄せて
「えーダメかー」
と困った様子で去っていきました。
また別の日。
総務の人に、次週おそらく採卵のためどこかで会社をお休みしますと話をしたところ、
「代わりに別の日に出勤してくれる?」
と言われました。
またも田熊は一瞬どういうこと?有休使っちゃダメってこと?とわけがわからず止まりましたが、
「わかりました」
と答えてその場を後にしました。
人工授精へステップアップするタイミングでの退職を考え会社に相談した際、退職せずに治療を優先できるよう出張をなくし、いつ休んでも仕事に穴を開けなくて済むポジションにまわしてもらってからはや一年と半年。
これは田熊の憶測でしかありませんが、会社側としては不妊治療がそんなに長期間続くものだと思っていなかったのではないでしょうか。
そしていつまでも成果の出ない治療を理由に出張に行かず有休も使いまくる田熊に不満を抱き始めたのではないでしょうか。
仕事と治療を頑張って両立しているつもりでしたが、その状態はもう長くは続けられなさそうであることを悟ったのでした。
【気晴らし旅14】体調

2023年7月。
不妊治療をお休みして箱根旅行に出かけたおっくんと田熊。
有名神社には行かなかったものの、大涌谷や彫刻の森美術館など主要観光スポットをめぐり、美味しいご飯を食べ、温泉に浸かり、夏の箱根を満喫しました。
そして箱根湯本で食べ歩きをしている時に気づきました。
体調が、良い。
たくさん歩けるし、たくさん歩くとお腹が空くからたくさん食べられる。
疲れはするけれど座ってソフトクリームでも食べながら休めば回復してまた歩ける。
それらは田熊がいつの間にか忘れていた通常時の健康体の感覚でした。
そこで初めて、採卵と移植をノンストップで繰り返していた4カ月の間、体調悪いのがデフォルトになっていたことに気づいたのでした。
身体の健康を取り戻した田熊の心は一気に前を向きました。
保険適用内で移植できるのはあと2回。
そこまでは頑張って、それでできなければ子どもはスパッと諦めて箱根にでも移住しよう。
できるだけ理想の家を見つけて、仕事も見つけて、おっくんと二人で旅行したりしよう。
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本来なら、1カ月でも若い卵子を得るために採卵を繰り返すべき35歳目前のタイミングにして不妊治療を休むことに、当初は少なからず迷いがありました。
しかし、結果論ですが、このお休み期間は田熊にはとても良い効果をもたらしたのでした。