田熊夫婦は予定していた実家への帰省をキャンセルし、好物のお寿司もローストビーフも生ハムも数の子もいくらも食べず、身体を冷やさないようにあまり外へ出かけもせずに、2024年のお正月を家で粛々と迎えました。
クリニックで血液検査での妊娠陽性判定をいただきましたが、田熊は自身の身体にそれらしい兆候を感じていませんでした。
強いて言うなら昼間でも少し眠たいくらい。
そのため早くエコーで診てもらって確証を得たい気持ちで頭がいっぱいで、クリニック休業の理由である正月という文化が邪魔くさくさえ感じるのでした。
三ヶ日が明けた2024年クリニック始業日。
営業開始時間とともにクリニックの扉を開け、採血をしてもらい、まだ正月モード漂ういつものカフェで1時間時間をつぶし、クリニックを再訪しました。
エコー後、田熊が診察室に入り椅子に座ると塩先生はペラペラの薄いポラロイド写真みたいなものを差し出しました。
「この黒くなっているところが胎嚢です。そしてこのポチッと白いのが胎芽というのですが、赤ちゃんですね。心拍も確認できました」
妊娠確定です、おめでとう、なんて塩先生はもちろん言わないので、田熊は「はあ、はい、そうですか」と相槌を打つだけでしたが、頭の中で
「私は妊娠できたのだ」
と自分に言い聞かせていました。