【妊娠初期7】マタニティ


2024年1月下旬、妊娠9週の頃。
出血が始まってから2週間が経ち、長引く安静生活により田熊は自分が社会の一員であることを忘れかけていました。
その間出血量は増えたり減ったりを繰り返していましたが、3日ほど少しずつ減っていく日が続き、ついにナプキンに血がつかない朝が訪れました。
出血がおさまった安堵と共に、田熊は社会人としての義務を思い出しました。
母子手帳をもらいに行かなければならなかったのです。
クリニックから次回の来院までに母子手帳をもらっておくように言われていた(安静なのに?)田熊は出血が止まったその日おっくんの運転で、それまで存在を認識してもいなかった市の保健センターへ行きました。
申請書に住所電話番号名前を書いて提出したら母子手帳をもらってはいおしまいかと思って軽い気持ちで窓口を訪れた田熊とおっくんは
「はいはい、こちらね〜」
と事務所の奥の部屋に通され、何やら解答欄が大量にあるA3用紙を渡されすべての欄を埋めるよう指示を受けました。
最終月経日や不妊治療をしたか否か、産む予定の産院、仕事の状況、生活環境、実家の所在地など様々な個人情報から妊娠してからの精神安定度合いをはかるチェックリストまで、ありとあらゆる質問に答え終わる頃には20分が経過していました。
2週間ベッドで安静にしていた田熊には椅子に座って胴体を起こしている状態さえギリギリなほど体力が残っていませんでした。
用紙を書き終えてからは保健師さんとの面談。
記入した内容を隅々まで確認され、各種助成金やサービスの説明を受けました。
それらが終わるとやっと母子手帳と、妊娠線予防クリームの試供品やママパパ向けサービスのクーポンやチラシがごっそり入った手提げ袋を渡されました。
手提げ袋の中にはマタニティマークが入っていました。
駅や街中でつけている人を見かけては、あああの人は自分と次元の違うところにいるのだなと羨んでいたマーク。
自分がつけられる日が来たことがまだ半分信じられない気持ちでした。
あと、いざつけてみるとピンクでハートという乙女デザインが自分に似合わなさすぎて若干の羞恥心を胸に抱きながらぶら下げることとなりました。