2023年9月。
田熊は2周期のリフレッシュお休み期間を経て、7回目の採卵周期を開始しました。
薬なし通院なしの日常生活と旅行によって心身ともに健康を取り戻し、再開した毎日の自己注射を無の感情でこなし、ホルモンによる体調不良も穏やかにやり過ごしていました。
そんなある日、会社で仕事をしていると社長に声をかけられました。
「田熊さん、10月に3日間出張行ってもらいたいんだけど」
田熊は一瞬、フリーズしました。
10月の治療がどうなっているか9月時点で全く読めないし、採卵⑦がうまく行っても行かなくても、その3日間に通院日が当たってしまう可能性はあるのでした。
田熊が渋々
「治療の関係で、難しいです」
と答えると、社長は眉間に皺を寄せて
「えーダメかー」
と困った様子で去っていきました。
また別の日。
総務の人に、次週おそらく採卵のためどこかで会社をお休みしますと話をしたところ、
「代わりに別の日に出勤してくれる?」
と言われました。
またも田熊は一瞬どういうこと?有休使っちゃダメってこと?とわけがわからず止まりましたが、
「わかりました」
と答えてその場を後にしました。
人工授精へステップアップするタイミングでの退職を考え会社に相談した際、退職せずに治療を優先できるよう出張をなくし、いつ休んでも仕事に穴を開けなくて済むポジションにまわしてもらってからはや一年と半年。
これは田熊の憶測でしかありませんが、会社側としては不妊治療がそんなに長期間続くものだと思っていなかったのではないでしょうか。
そしていつまでも成果の出ない治療を理由に出張に行かず有休も使いまくる田熊に不満を抱き始めたのではないでしょうか。
仕事と治療を頑張って両立しているつもりでしたが、その状態はもう長くは続けられなさそうであることを悟ったのでした。