慢性子宮内膜炎の検査のための子宮内膜組織の採取。
処置台に仰向けになり、塩先生の
「麻酔をお願いします」
の合図を聞き深呼吸をしていつもの眠気を待ち構えていると、目の前がだんだんと黄色くなってゆきました。
黄色?
と困惑したところで後頭部をつかまれ無理矢理後ろに引っ張られるような感覚が。
周りが黄色一色に変わり、その中を背中からグオーーと落下していきました。
耳元ではガシャガシャしたクラブミュージックのような騒がしい音が鳴り響き、落下のスピードで頭も身体もいうことを聞かずバラバラになりそうでした。
わあああああああと頭の中で絶叫しながら落ちて落ちて、結構長めに落ちた後、急に落下が止まりました。
どうやら黄色い空間の底に着いたようでした。
黄色い液体の中でゆらゆらただよっているような感覚で、上の方からガシャガシャした音楽に紛れて塩先生と看護師さんの声がかすかに聞こえていました。
そこで田熊は、
あ、これ、死んだわーーー
と思いました。
やばい、せっかくお金かけて自費検査してるところだったのに、志半ばで死んじゃったわー
クリニック死者出しちゃったわー
と一瞬焦りました。
ですが、いやだ死にたくない!という抵抗感は意外となく、
もうこうなったら仕方ないか、とスッと穏やかに受け入れていました。
ああでも、おっくん悲しむだろうな。
私の生命保険がおりるからしばらくは働けなくても生きてはいけるか。
などとぼやぼや考えながら黄色い空間を眺めていました。
上の方からはまだ塩先生の
「はい、あと一回」
「はい、終わりでーす」
というような声がかすかに聞こえていました。
そのうち今度は
「田熊さん!」
と上の方から自分を呼ぶ声が聞こえてきました。
すると田熊が仰向けに寝ている黄色の底がじりじり浮上し始めて、
「田熊さん!」
の声が段々と大きくはっきり聞こえてきて、水の底から引き上げられるようにグワッと黄色の世界から抜け出ました。
いつの間にかギュウウと目をつぶっていることに気づき、やっと目を開くとそこは見慣れた処置台の上でした。
傍らにいた看護師さんに
「終わってますよ!」
と声をかけられ、自分が息を深く吸って吐き、心臓がドキドキしているのを感じ、死んでいないことを知りました。
「ハハ、採卵と全然違いますね」
と口から勝手に感想が漏れ出て、何言ってるんだ自分、と少し恥ずかしく思いました。