2023年5月。
採卵のため、田熊は処置台に寝転がり天井を眺めていました。
いつものように痛み止めの薬が点滴で入れられると頭の中がモヤがかったようになりました。
そしていつも通り塩先生が処置室に入ってくると静脈麻酔を入れる合図が出されました。
今回で、採卵ももう5回目。
5回目て、多くない?
普通そんなやる?
いや採卵する時点で普通枠からは外れてるのだけども。
いつも通り意識がなくなるのをじっと待っていました。
が、長い。
塩先生と看護師さんもじっとして田熊の意識が落ちるのを待っているのを感じますが、田熊の意識は、ある。
どうしよう、今までこんなことなかったのに。
麻酔が少ないのかしら。
とにかくまだ麻酔が効かないことを言わなくちゃ!
田熊はモヤモヤする意識の中、力をふりしぼって
「すみません!麻酔が効いてないんですけど!」
と声に出して訴えました。
すると隣にいた看護師さんから
「手術もう終わってますよ」
と返ってきました。
はて?
と自分の身体に意識を向けると、採卵前にはガニ股に開いた状態だったはずの足はまっすぐにぴったりそろえられ、タオルが巻かれていました。
麻酔が効いていたことにも気がつかないという新感覚を5回目にして初体験したのでした。